10月24日付けの日経1面の「中小負債 10年ぶり高水準」に、違和感を感じたので、
データの出所である法人企業統計調査」まで当たって確認しました。
記事では、「中小・零細企業の資金繰りが悪化している。資本金を本業の利益で割った返済負担は2021年3月末に
08年のリーマン危機後の水準まで悪化した。」
とあります。
ゼロゼロ融資の拡大で、政府(公庫)が支えているが、返済が22年中に元金の返済が始まるので、
ここから倒産が増える。TSRの人は「年末、年明け以降が山場」と言っているとのことです。
直観的に(中小企業の現場にいるものとして)、この記事は、ただ単に危機を煽っているのではないかと感じました。
借入が増えたのは確かですが、現預金もかなり積み上がっているというのが、実感だからです。
(そもそも記事に載っているグラフで見てもリーマン危機後の水準までは悪化していませんけど・・・)
そこで、法人企業統計調査の生データにアクセスしてみました。
ただし資本金1億円未満(法人統計調査の区切りに合わせました。記事は資本金1000万円未満の企業についてなので
区切りが違います。1000万円未満で検証するのは、5区分を足し算しないといけないので、面倒なのでやってません)
での確認となりました。
確かに、借入金/EBITDAでは、21年3月末に9.29となり、20年3月の6.35から悪化しています。
リーマン後の10年3月末の8.67以来で、その水準を超えています。
20年3月末に比べると、借入金は109%と増えていますが、EBITDAが74%まで減っているのが効いています。
ただし、現預金が、前期比120%なので、純借入(借入金-現預金)は、前期比86%となっています。
純借入は減っているのです。
EBITDAが下がっているため、純借入/EBITDAは、20年3月末の2.05から21年3月末の2.38にわずかに上昇していますが、
09年3月末の4.55や10年3月末の4.03より、かなり低いです。
ここのところ借入は増えていますが、現預金と両建てになっている企業が多いのです。
法人企業統計によれば、資本金1億円未満の企業の借入金の絶対額は、リーマンのときと比べて微増(175兆円→181j兆円)ですが、
純借入の金額は、半分(105兆円→59兆円)です。
弊社のクライアント企業の多くは、「念のため」に公庫や商工中金、あるいは保証協会付きで
コロナ融資を受けて、借入金の絶対額は増えていますが、預金も増えていますので、
当座比率が高まって、倒産確率はむしろ下がっていることになっています。
もちろん一部業種では苦境に陥っている企業はあるとは思いますけど、
全業種に広がっていないというのが、今回の特徴ですし、
コロナ融資が現預金にかなり滞留しているというのが、実態です。
コロナ融資は、返済期間が長く、据え置きも長めなので、コロナ融資の返済開始の前に(あるいは返済開始後まもなく)
既存借入の口数が減り、月々の返済額が減って、「固定資金不足(フリーキャッシュフロー<返済)」の状態を脱しつつある企業すら生まれている可能性もあります。
その意味で、一部業種の企業以外は、今回のコロナ融資は、CF是正のチャンスだったということになるでしょうか。