ある製造業の会社の社長は、社内(工場)の現場を回ることがあまり好きではありません。
番頭格の役員は、週一回でも良いから、工場を見て回って、社員に声を掛けたり、たまには注意したりしてほしいと、社長にお願いしているのですが、なかなか実行してくれません。営業にも出ない社長なので、それほど忙しくなさそう(失礼)なのに、です。
現場の社員たちも、「社長は工場に興味がないのではないか」と思っているようでした。
役員に頼まれて、私が社長に、「たまには現場を回ってあげてもらえませんか」と話をしたところ、予想外の反応がありました。
曰く、「先代の社長(現社長の父)は、現場を回って、社員にいろいろと注文を出すことが好きだったが、社員は、『誰には声を掛けて、誰には掛けない、社長は贔屓をしている』などと言っていたことを良く覚えているので。私はできるだけ、現場は回らず、社員に任せているんだ。」
これには驚きました。
まさに牽強付会です。現場に行きたくないのを強引に正当化しているだけにしか聞こえませんでした。現場に行きたくない理由は、①現場のことがよくわからない、②現場に興味が持てない、③社員と何を話してよいかわからない、などと推測しますが、本当のところはわかりません。
たまには現場を回って自分なりにチェックをし、また、社員に声をかけることは、社長の最低限の任務だと思いますが、結構ないがしろにしている人が多いように思います。
卸売業や運送業であれば、倉庫とか営業所・支店、小売業であれば店舗が現場になると思います。
話はややずれますが、ダイエーの故・中内功さんが「現場主義」で有名だったのに対し、セブンイレブンの鈴木敏文さんは、「データ主義」に徹していて、むしろ現場感覚に引きずられると間違った方向づけをしてしまうというとおっしゃっています。これはこれで相当正しいのですが、現場は見なくても、ものすごい量の情報を集めることができる、というのが前提でしょう。
確かに、数少ない店舗を見て間違った印象を持ってしまったり、たまたま話をしたある店員の意見だけを聞いて何かを決めていくのは危険です。ただし、そういったリスクを考慮しても、何も見ないで何かがわかるほど天才の経営者が多いとは思えません。
セブンイレブンほどの情報収集力もない中小企業の幹部が、現場を見ないようではどうにもなりませんね。