「インバウンド」が話題となっていた6月に、全く同じ書名の本が2冊出版されています。
タイトルは「新・観光立国論」で、著者は、デービット・アトキンソン氏と寺島実郎氏です。
読んでみましたが、どちらも面白かったです。
寺島氏の本は、観光立国論とはいいながら、現在の日本経済の直面する課題(=観光立国を必要とする背景)がどちらかといえばテーマになっていて、氏は、とくに「日本はすでにアジアのトップランナーではないという現実」を強調しています。
2014年の中国のGDPは10兆ドルですでに日本の2倍を上回り、一人当たりGDP(日本36,000ドル)でも、シンガポール(56,000ドル=日本の1.55倍)、香港(40,000ドル)に差をつけられているとのこと。
人口構造が成熟化し、サービス産業化が進んでサラリーマン家庭の貧困化が進む日本では、観光立国に頼らざるを得ないということです。
ただし、観光立国の内容自体は、「世界の事例に学ぶ」ということで、あまり展開されていません。シンガポールのモデルは興味深く読みましたが。
一方の、デービットアトキンソン氏の本は、日本の進めている観光政策の誤りについて、具体的な提言がたくさん含まれており、刺激的な内容になっています。
まず槍玉にあげられているのが、「おもてなし」です。
結論的には、「おもてなし」(という日本人が自慢に思っていること?)を目的に来日する外国人は非常に少ないのに、そこに焦点を当てるのは間違いだということです。
大変面白かったのは、滝川クリステルさんのIOC総会でのプレゼン「お・も・て・な・し」+合掌が、海外で大きな違和感を持たれたという件です。詳しくは本の101ページあたりをご覧ください。
「お迎えするお客様を大切にする「おもてなし」を説きながらも、一方でその「客」である外国人たちの評価を気にせず、身内からの自画自賛の声によって評価とする。これでは単に、身内での自慢話を聞かされているような印象しか受けません。」
具体的な提言(たとえば、成田~東京にこそ新幹線をとか、英語表記が少ないとか、電車の切符を買うのにクレジットカードが使えないとか・・)は非常に面白かったです。
さて、「おもてなし」の話を読んでいて、思ったことがあります。
経営コンサルタントとして、SWOT分析をクライアント企業について行うというのは定番で、とくにS(強み)については掘り下げていく必要があるのですが、その際、社内(経営者や社員)でのインタビューをその中心にしてしまうと間違う可能性もあるということです。
社内インタビューだけで情報を収集するのは、楽ですし、他社とのデータ比較はもちろん行いますので、とんでもなく誤った結論にはならないとは思っていましたが、肝心の「客」の視点での「強み」の深堀りがないと、観光立国論の中心に「おもてなし」を据えてしまうような、間違いをしてしまう可能性があるのではないかと改めて考えさせられた次第です。