経済産業大臣認定 経営革新等支援機関

「オリックス、金型大手『アーク』を買収へ」のニュースに対する違和感

本日、アーク(東証一部)に対するオリックス(正確にはオリックス子会社)による買収のニュースが流れ、同社の株はストップ高になりました。



同社の株価自体は、私の損得に全く関係ないので、興味はないのですが、このニュースの報道のされ方にかなりの違和感を感じました。



①アークは金型大手ではないし、金型は同社のノンコア事業である。



本日同社から出たIR資料にもありますように、「開発支援事業に関するノウハウを当社の中核的能力と位置づけ、コア事業として維持強化を図る一方、金型事業及び量産事業については、・・・非コア事業と位置づけ・・・」られています。



②「金型技術が日本から流出する!」などと的外れなニュースになっている。



NHKのニュースでは、かつてオギワラ(正真正銘の金型大手、ただしプレス用型でアークは樹脂成形用型関連)がタイ企業に買収され、その一部が中国企業の傘下になったことを回顧して、その像を重ね、ややナショナリズム的な技術流出の話に展開していましたが、もともとアークは、グローバル展開していましたし、金型技術に特化した企業でもないので、どうもピンときません。



③大田区の金型企業を取材するなどして、全く間違った方向の記事になっている。



アークは現場で地道にものづくりに励むことを強みにしている会社ではないのに、強引に「ものづくり」や「中小企業」の話題にしている。



④アークの経営が傾いたのは、旧経営陣の経営能力の問題。



現在のアークの社長は、鈴木康夫さんという方で、産業再生支援機構が招聘した元コマツ専務で、なんと三枝匡さんの「V字回復の経営」(私のバイブルです!)の川端祐二のモデルです。増補改訂版の同書の巻末で、三枝さんと鈴木さんは対談しています。「私が来たときのアークの主要メンバーは、私がコマツで三枝さんと改革を始めた時の私よりもさらに経営リテラシーが低く・・」と書いてあります。アークはM&Aにより、数年間で規模を約30倍の3,833億円まで拡大し、連邦経営と称して、買収した会社の経営をきちんと行っていませんでした。経営能力の問題に焦点が当たるべきです。



さて、なぜアーク社に、私がここまでこだわるかといいますと、同社の「工業用デザインモデル事業(開発支援事業)を軸として、企画・デザイン・設計・試作モデル・金型・成形加工から組立工程に至るまでのワンストップサービス」という事業モデルにずっと興味があったからです。単なるものづくりではなく、上流工程の「企画・デザイン・設計・試作モデル」こそが、付加価値の源泉になっていくのではないかと思っていましたので。同社のM&A戦略も近くで(私と仕事を一緒にした会社も一時子会社になっていました)見ていましたし。



アークは守備範囲を広げ過ぎてきたと思いますし、管理能力がほとんどないのに海外M&Aをやって(おそらく投資銀行・証券会社・M&A仲介会社等の食い物になってしまっていたのでしょう)、破綻寸前まで行きました。同じく、独特のラピッドプロトタイピング・金型で頂上を目指したインクス社も2009年に民事再生法を申請しています。単純な「ものづくり信仰」を超えて行かねばと思いますが、現実はなかなか厳しいですね。反面教師にさせていただきたいです。



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参考文献:

「V字回復の経営」(増補改訂版)三枝匡著、日本経済新聞出版社

「思考」井関利明×山田眞次郎(元インクス社長)、学研パブリッシング

「インクス流!」山田眞次郎著、ダイヤモンド社

「製造業が日本を滅ぼす」野口悠紀雄著、ダイヤモンド社